2016-03-20

【週俳2月の俳句・川柳を読む】あらゆるものの亡骸の上で  大和田アルミ

【週俳2月の俳句・川柳を読む】
あらゆるものの亡骸の上で

大和田アルミ



枯菊を焚く火中より波の音   中村 遥

東日本大震災から五年が経過した。その事を思うと枯菊を焚く火中より波の音がする、というこの句は想像に難くない。しかし震災の事を別とすれば、この波の音は何なのだろう。そう思った時、これは作者の過ごしてきた時間にある様々な波なのかもしれないと想像した。枯菊を焚きながら、過ぎていった出来事や人々に思いを馳せている作者がいる。

絵襖の金ンこぼすかに鳥鳴いて   中村 遥

絵襖があるのは豪華なホテルか結婚式場でもいいのだけれど、どこか由緒正しき寺院の方がいい。最初は金箔に極彩で描かれた鳥を想像したが、ふと思い返した。金をこぼす様な声という事は、トーンが高めの、よく通る雄々しい音色なのだ。そうなるとこの絵襖は寧ろ白地や夜を思わせる濃い色で、彩色は限定されたもの、というのも悪くない。その方がこの鳥の声が際立つようにも思えた。何れにしろ目の前に見事な絵襖を想像し、気持ちのいいひと時を過ごさせて頂いた。

「檻=容器」10句   川合大祐

さてこの十句、どう鑑賞するのがよいのだろう。一句づつ呪文のように読み返してみたり、十句を全部繋げて書いてみたり・・・。そうこうしているうちに、俳句というものが檻=容器のようなものかもしれないと思えてきた。立ち位置を変え、時空さえ超え、檻のように風通しのいい状態を大切にしながら五・七・五と徐々に囲っていき上手い具合に容器に納めていくのだ。作者の世界はまだまだ広がっていくのだろうか。この檻は相当大きそうだ。

飾焚く重さ持たざるものとなり   篠塚雅世

毎年近所の小学校でどんど焼きの行事が行われて、呼ばれて見に行っている。昨今は火や煙を伴う行事は敬遠されるので主催者のご苦労は大変だと思う。飾りを焼く火で歳神を見送る訳だが、この句を読んで改めて生活の中にある神事の意味を思った。神事とは、有機物無機物問わず物体という形や重さのあるものが、目に見えないものに変化する様の崇高さを示しているのかもしれない。この句は人事の及ばないところをさらっと言ってしまっている。

人形の家に人形ペチカ燃ゆ
   篠塚雅世

人形の家と言われればやはり、あの有名な戯曲を思い浮かべてしまう。人形の家に人形がいるのは当たり前なのだが、その当たり前をあえて言う事で、この人形の家で繰り広げられる人形達のドラマを客観的に見ている作者がいる。ペチカは極寒の地域の暖房と想像するので、この家の閉塞感は更に増す。明々と燃えるペチカのように、人形達も作者も、この狭い世界から飛び出したいという思いを心に滾らせているのかもしれない。

イヤホンの無音を聞いて雪の町
   下楠絵里

貝を耳に当てると海の音がしているようだと言う。一人っ子の私は一人遊びは得意な方で、手で耳を覆うと深海の音がするのだと勝手に想像して遊んでいた。だからこの句の感覚は私にはしっくり来た。音楽が聞こえないイヤホンは耳栓じゃないかと思ってはいけない。無音と認識した時、実は雑多な音は淘汰され、その耳には聞こえるべくして聞こえるものが届く。少ない情報から無限に自分の世界を広げられる。それが雪の町の中だなんて、なんて素敵な光景なんだろう。

吊革のみな握られて春隣
   下楠絵里

吊革がいくつもぶらぶらと揺れているのは空いている車内で、吊革自身なんだか手持ち無沙汰な感じだ。どの吊革もみんな握られているという状況は人が沢山乗っていて、しかも肩と肩が触れ合うほどの混み具合だ。そんなのだとすると、暑苦しかったり緊張感だったり疲労感だったりも見えて、季語は動くとも思う。しかし手から吊革に伝わる温もりを思う時、春隣もいいなと感じた。

花樒土に声ことごとく吸はれ   トオイダイスケ

この作者の十句は「死なない」というタイトルにもあるように死を強くイメージしているのだと思った。樒は仏前に供える習いがあるし、土に声がことごとく吸われるというのは、無念にもこの世を去らざるを得なかった人達の声なき声ともとれる。でもその死のイメージはすべて暗く悍ましいものとしているのではない。私達は毎日、太古の昔からあらゆるものの亡骸の上で暮らしている。それは自然な事で、そうやって幾世代も繋がって生きているのだ。

野に遊ぶ着のみ着の儘来し友
と   トオイダイスケ

前述の死のイメージを引き継ぐと、これは他界してしまった友なのかとも思う。思い出の中の友なら着のみ着の儘でも不思議はない。野に遊んだ記憶は忘れ難い思い出だったに違いない。そして自分は生きている。もし死のイメージでないとしても、私にはこの友がニングルのような存在のように思えて、人形師の与勇輝が創作した人形を思った時、虚の世界ながら楽しさを覚えた。この十句の最後に「死なない」、「蛇」を持ってきた事でも、この死は再生に繋がっていると判る。


第459号 2016年2月7日
中村 遥 光る魚 10句 ≫読む
川合大祐 檻=容器 10句 ≫読む
第460号 2016年2月14日
篠塚雅世 水草生ふ 10句 ≫読む
第461号 2016年2月21日
下楠絵里 待ち人 10句 ≫読む
第462号 2016年2月28日
トオイダイスケ 死なない 10句 ≫読む

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