2016-03-20

【週俳2月の俳句・川柳を読む】 見えるもの、聞こえるもの 望月とし江

【週俳2月の俳句・川柳を読む】
見えるもの、聞こえるもの

望月とし江


絵襖の金ンこぼすかに鳥鳴いて   中村 遥
をあをと薬草乾く涅槃かな

一句目、薄暗い寺院の中の古い襖絵。うねるような老木にとまる鳥は口を開けている。背景の金箔は燻されたようにくすんだ光を幽かに宿す。この「鳥」は絵の中に閉じ籠められた鳥とも、外から聞こえてくる鳥の音とも。心象風景の中で金粉が僅かずつ剥落し続ける。

二句目、涅槃という季語では「涅槃図絵」が人気でさまざまな動物が登場するが、「薬草」もしっくりくる。「あをあを」に仏の加護が見える。

檻=容器  川合大祐

連作を「 」で括り、まさに「檻」として閉じこめている。この「容器」とは器というよりビニールパックであり、一つずつの作品はビニールの向こうに透けて見える商品のように見える。一つの実験作であろうが(私はそう捉えたが)、構図が透き過ぎていないか。枠を超えて滲むものがほしい。

牡丹の辺りの乾き寒土用  篠塚雅世

「寒土用」という季語は使ったことがない。「寒土用」とは、立春前の18日間を指すそうだ(『角川俳句大歳時記』)。「寒の内」より「春」が内包された季語だ。掲句は寒牡丹の辺りの「乾き」が空気を指すともいえるが、「土」も想起させる。やがて来る春により「乾き」に潤いがもたらされることも想起できる。想起する来るべき春の景に「牡丹」の残像が邪魔をするのが惜しいが、妙に気になった句である。

イヤホンの無音を聞きて雪の町  下楠絵里

イヤホンを挿しているのに、そこに音楽は流れていない。この人は周囲の音を遮断しつつ、イヤホンの「無音」を聞いているのだ。しかも、そこは音が吸い込まれていく「雪の町」だ。この屈託に思わず身を添わせてみた。

映像のをさなき俺が東風に揺れ   トオイダイスケ
曲終はり友は寝てをり春灯   

現代の若者は誕生直後からの「映像=動画」の自分の成長を見ている(見せられている)。写真でしかそれを見ていない世代とは画期的な違いだと思う。「をさなき俺」が揺れているのは、それを「東風」と名付けることのできる「今の俺」だ。

「春灯」の艶な趣を打ち消すように、寝ているのは「友」である。若い男二人が飲んだ後でどちらかの家に泊まりに行き、酒を飲みながら好きな音楽を聴いて夜が更ける。恋人と過ごしたいような春夜であるが、この心地よさとかすかな倦怠感が現代の若者だな、と思う。

第459号 2016年2月7日
中村 遥 光る魚 10句 ≫読む
川合大祐 檻=容器 10句 ≫読む
篠塚雅世 水草生ふ 10句 ≫読む
第461号 2016年2月21日
下楠絵里 待ち人 10句 ≫読む
第462号 2016年2月28日
トオイダイスケ 死なない 10句 ≫読む

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