2016-04-03

【みみず・ぶっくすBOOKS】第3回 アレックス・ドラヴァン『H24/24のHAIKUで語る24HOURS』 小津夜景

【みみず・ぶっくすBOOKS】第3回
アレックス・ドラヴァン『H24/24 の HAIKU で語る 24 HOURS』

小津夜景


ある特定ジャンルの主題や要素を積極的にとりいれて作句する「○○俳句」といったものがに存在する。個人的には「BL俳句」ないし「豚俳句」あたりがぱっと思い浮かぶが、海外にもやはりその手の「○○俳句」はあるようだ。

今「あるようだ」と書いたが、むしろ「伝統俳句」(これも「○○俳句」ですね)からの無意識的抑圧を受けないためか日本とは比較にならないほど活気にあふれている、と明確に評するべきかもしれない。実際「フード俳句」やら「スポーツ俳句」やら「ネコ俳句」やら「シネマ俳句」やら「ゾンビ俳句」やら、調べ出すと本当にきりがないのだ。

さらに端から覗いている限りでは、サブカル度ないしオタク度の高いジャンルの方が俳句とより結びつきやすい気配が感じられる。となるとその双方にまたがるジャンルとして最も手近(?)な海外BL事情がやはり気になるところ。それで試しにアメリカ版元祖やおいとも称される『スタートレック』を調べてみたら、ごく当然のように Kirk/Spock を扱った「スラッシュ俳句」がざくざく出土するではないか。

なんだか、ふしぎなような、あたりまえのような、妙な気持ち。もしかすると人類というのは自己の偏愛や感動を言葉にするとき、あらゆる文化のちがいを越えて「ここで一句」の心境に達する生命体なのかもしれない。

ところでなんでこんな話をしているのかというと、今週とりあげる句集の著者アレックス・ドラヴァンが「ゲーム俳句」でデビューした俳人だからである。なんでも彼が「ゲーム俳句」に手を染めることになった理由は「リアルを大切にする俳句の感性でもってヴァーチャルを詠んだら一体どうなるだろう?」との思いつきからとか。もっともここに紹介する『H24/24のHAIKUで語る24HOURS』は遊び心に溢れているもののゲームとの関連はなく、そのタイトル通り「ある一日のできごとを24の俳句で語ってしまう」といったコンセプトの句集だ。


本文38頁。価格は6,9€=約850円。

 
薄いのに、ちゃんと背表紙のついた造り。


造本はカヴァーフィルム仕立てで、ラミネートを思わせる少し堅めの表紙。本文はまっしろい厚手の紙で、一頁に一句ずつ、一日のひとこまが切り取られている。またプロポーズの台詞のような献辞もついている。曰く「サンドリーヌに捧ぐ、焼きパンの匂いとすべての二人ののために」。すごいね。でもフランス・マジックなのかぜんぜん平気で読めてしまう


献辞。

見開き2句。

句柄はすっきりと都会的。朝起きて、シャワーをあびて、カフェをのんで、エレベーターで見知らぬ人と挨拶をかわし、職場の同僚ととりとめのない話をし、昼休みはポータブルPCで詩を書き、戦争や殺人のニュースに触れて……と、ありきたりな日常をシンプルで翳りのない文体で綴ってゆく。いいな。こうゆう人になってみたい。あと、序文の語り口にたぶん本人らしさが凝縮していると思われるので一部訳出してみる(超豪傑訳です)。

「人生の、とある一日。

別の時代、別の国、別の文脈であれば、切り取られる風景は当然またちがってくるだろう。

だがなによりもまずここに表出されたのは、抒情的あるいは自己投企的ポエジーの高揚から遠く離れ、また詩的言語表現を追究する野心からも遠く離れた、ごくささやかな日常における人間存在の《内なるヴァイブレーション》である。この日常は、僕ら自身がつくりあげる平穏でこの上なく几帳面な世界のなかに内包されるものだ。

20世紀の僕たちは、アーバニズムやら、テクノロジーやら、現代社会のさまざまな表徴にまみれながらその人生を送っている。そんな中、自分をからっぽにして、いまだ手つかずのままにある世界の中心を摑み出すのに、俳句という道具はとても有効だ」

なんだか村上春樹の文章を読んでいるような気分になるのは私だけだろうか。紹介したい句はいくつもあるが、なんといっても24句しか収録されていない本なので、2句だけの引用にしておく。

08 :46
Bouchon sur la route
Avec moi dans la voiture
Un petit insecte

08 :46
渋滞
車の中には僕と
いっぴきの小さな虫

10:42
Bureau, je revâsse
Au soleil luit le cou nu
De la secrétaire

10:42
机、夢心地でいたら
光ったうなじは
秘書の




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