2016-08-28

【週俳7月の俳句川柳その他を読む】こんがらがっていく遊び 大原里梨歌

【週俳7月の俳句川柳その他を読む】
こんがらがっていく遊び

大原里梨歌


ときどき、考え過ぎだよと言われるときがある。ときどき、考え過ぎだよと言われたいときがある。

呼べば去りしらさぎは田中でなくなる  福田若之

やあと言うと田中は応えない雷雨   同

「田中は意味しない」という一連の作品の中の一句。おそらく本当に田中はなにも意味しない。それでもわたし達は「田中」の意味を探さずにはいられない。「呼べば去りしらさぎは田中でなくなる」と言われると田中であった過去を想像したがるし、「やあと言うと田中は応えない雷雨」と言われるとなぜ応えないのか、などと考えはじめる。そして、そこから田中を探ろうとする。

これらの句、あるいは題を見るときに「~ない」と言われると、わたし達は自然と「~ある」を思い起こす。そしてそこから「~ない」状態を想像する。「~ある」と「~ない」を比較することによって、「~ない」を捉え直そうとする。わたし達は作者がなぜわざわざ「~ない」という表記にしたのか、といった「意味」を追おうする。意味はないのだとしても。

意味ありげに夏の水面を見る田中  同

作品自体は、他の多くの俳句と同じように作者の手から離れている。しかし、鑑賞するわたし達の方が作者の手の中で踊らされている感覚。この一連の作品はそういった感覚を楽しむものだと思う。本当は意味なんてないと悟りつつも、意味を探してこんがらがっていくひとときを楽しむのだ。

それでも晩夏なおも田中の名を叫んだ  同




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