2016-08-07

夏休み納涼句会 選句と作者一覧【糸】

選句と作者一覧【糸】


〔席題【糸】の高点句〕

うたた寝の糸をたぐれば海へ出る  村田 篠
◯冬魚◯西川火尖◯近恵◯なかはられいこ◯かんな◯石田遊起◯鈴木茂雄◯宮本佳世乃◯生駒大祐◯犬山入鹿◯中村遥◯鈴木不意◯由季◯黒田珪◯かよ◯沖らくだ◯佐藤日田路◯光明◯赤野四羽◯あまね◯吉野ふく◯幸市郎
■うたた寝の糸を手繰ればけっこういろんなところへ行けるのが楽しい。この海では近くのレストランのバルコニーで寝椅子に転がってボサノバでも聞いていたい。(吉野ふく)
■「うたた寝」と上五で入り「糸」伝いに頭頂部に「海」が現れ広がる。またまだまだ広がる様が前方にありありと期待できます。(あまね)
■うたた寝の世界はどこにつながっているのか?「船を漕ぐ」ともいうように、それは海へとつながっている。たゆたう感覚が楽しい。(赤野四羽)
■生きものの故郷は海!「たぐれば」で強くつながりを感じました。(光明)
■うたたねは昼寝と解し有季とするかどうかをさておき、季感としては夏。すべての命の糸は海に繋がる。うたた寝をしてそのことに気がついた。(佐藤日田路)
■ファンタジーのような夢。「うたた寝の糸をたぐる」という言い方が幻想的できれい。昔の思い出の海ではなく、見たこともない異世界の海と勝手読みしました。(沖らくだ)
■うたた寝の浮遊感が浮かびやすい海水につながって、ゆらゆらと心地よい句。(かよ)
■夢か現かの境地はまさにこんな感じかと思いました。海ではなく空に届く人もいれば地底に落ちる人もいそう。海に出るのは幸せな境地かと。(黒田珪)
■うたた寝には、別世界へ運ばれるような感覚があります。糸という題が効果的に使われているように思います。(由季)
■こうした句は、よう作らない。眠りの中の出来事と考えると不思議な景だ。(鈴木不意)
■下五の〈海へ出る〉がいい。(中村遥)
■夏の午後のけだるい眠り。ひろがってゆく夢の水平線(犬山入鹿)
■ちょっと横になったら、うっかり寝込んでしまった。季語になった「昼寝」と違うところは時間の余裕の差だろう。無季の句だが、「海へ出る」が夏の季感を際立たせる。「糸をたぐれば」もいい。(鈴木茂雄)
■気持ち良いうたた寝。幼い頃の海での思い出に浸る。(石田遊起)
■いつの間にか海。(かんな)
■たゆたうような眠りと糸と海のつながりかた、すてきにバランスいいですね。切れそうだけ切れない関係性をつくりあげてて、いいなあと思います。(なかはられいこ)
■夢と現実の狭間の感じがよく出ている。糸という心許ないものから海への展開に解放感があっていい(近恵)
■うたた寝が海へ通じているという発想は、それをつなぐものが糸だと言われるとなんだか納得してしまいそうです(西川火尖)
■「うたた寝の」と出だしは緩やか。「糸」の端っこが見えて、下五で一気に視界が広がる。展開が鮮やかです。(冬魚)
■睡眠と海とのおおらかなつながりがいいです。(宮本佳世乃)
■言葉がシームレスにつながる感じがよいですね。(生駒大祐)
■カーナビじゃなくてうたた寝の糸をたぐって海へ行くなんて御洒落ですね。(幸市郎)


エクスタシーにまつわる細く赤い糸  きゅういち

かちわりに必殺仕事人の糸  竹井紫乙
◯怜
■かちわりの粗野に三の糸の勇次のクール。(怜)

きらきらとひとすじの糸飯饐える  羽田英晴
◯うさぎ◯鈴木茂雄◯中村遥◯かよ
■ご飯が腐りかけるという憂鬱さのなかにもきれいな光があることを教えてくれる。(かよ)
■季語の懐かしさ。冷凍保存が出来る現在ではもう遠くなってしまった。季語「飯饐える」にきらきら輝く糸を配した意外性。(中村遥)
■この「きらきら」感は雨に濡れた蜘蛛の糸とは対極の美。だが、それはイメージの世界。現実はもっと暗く饐えた臭いのする場所。まだ冷蔵庫のない時代、生ものは水屋という通気性のよい網戸の食器棚に入れておくのだが、昨日のものでさえ夏のご飯は少し臭ったもの。残りご飯は水で洗って食べたのを思い出す。「飯饐ゆ」も「洗ひ飯」も、ともに「水飯」の傍題。(鈴木茂雄)
■饐えたご飯が糸を引くのかどうか分からないけれど、納得。そんなものにも美を見てしまうところに惹かれました。(うさぎ)

こぼるるは糸と真夏の笙の音  宮本佳世乃
◯吉野ふく
■美しい。涼しげな笙の調べが聞こえてくる。夏を乗り越えられそう。(吉野ふく)

スベリヒユ木偶の先より糸伸びて  かんな
◯笠井亞子◯野口裕◯幸市郎
■糸の差配は誰でしょう。(野口裕)
■季語のカタカナ表記が、木偶の動作を表しているようで不思議な味わいになった。(笠井亞子)
■スベリヒユと木偶の取合せが素晴らしい(幸市郎)

ちんぽこに糸をぐるぐるなんか晩夏  芳野ヒロユキ
◯マリオ◯村嶋正浩
■糸は絹糸、麻糸、毛糸、タコ糸、いずれにしても、ぐるぐるなのだから少しは痛みのあるものに違いない。ぐるぐるすることが、悲しい思い出によるものか、心地よいものによるのか分からないが、「なんか」の言葉が思いを膨らませざわざわと心打つ(村嶋正浩)
■上中のばかばかしさを、下六の東京音頭風リズムで吹き飛ばす(マリオ)

はちぐわつの糸巻エイの面構  石原明
◯鈴木不意◯小久保佳世子◯石鎚優◯芳野ヒロユキ
■確かにイトマキエイは「八」に似ている。(芳野ヒロユキ)
■「八月」から連想される敗戦、盆供養、晩夏などの観念や抒情が、エイの姿や生き様にぶつかると、人間の業のような響きが聞こえるようだ。(石鎚優)
■糸巻がエイの面構えという強引な見立て。その強引さに脱帽。「はちぐわつ」という表記は発音すると、ちょっと舌を噛みそうで八月とは違う味わいがあります。(小久保佳世子)
■「八月の」でもよかったような、「エイ」は漢字のほうが好き。平べったいエイが思い浮かぶ。「面構」と言ったところがいい。(鈴木不意)

はつ夏の糸鋸をひく透かし彫り  小林幹彦
◯吉野ふく
■眩しくてさわやか。心が洗われるよう。(吉野ふく)

ほつれ糸ほつれつづける秋の裏  怜
◯うさぎ◯石田遊起◯笠井亞子◯彰子◯小久保佳世子◯Y音絵
■「つ」の反復等により内に籠ったような響きの上五中七から、あっけらかんとした下五への展開が印象的でした。(Y音絵)
■布のほつれが永遠に続くイメージです。秋という季節にも裏があるのでしょうか。裏は表より興味をそそられます。(小久保佳世子)
■「ほつれ糸ほつれつづける」中7まで一気に読ませ「秋の裏」ほど良い脱力を味わいました。(彰子)
■絶えずそういうことが進行しているのだ、生きていると。(笠井亞子)
■結ばれた赤い糸がほつれるのでしょうか、秋の裏のやがて糸はもとの糸。(石田遊起)
■秋の裏とは?と思いつつ、季節の裏側で何かがほころび続けるという発想が魅力的です。(うさぎ)

マクベスの魔女等糸取鍋を守る  青柳 飛
◯かんな◯菊田一平
■取り合わせに格調を感じました(菊田一平)
■どんな糸・どんな生地ができるのか、じわり冷や汗。(かんな)

よくできた妻に井守の糸きたる  赤野四羽

一族とか糸瓜とか揺れ笑えない  青砥和子
◯曽根主水◯鈴木茂雄
■夏休み、田舎の実家に帰省した若者のアンニュイが伝わってくる。「とか、とか」という苛立ちの効果音。ぶら下がっている「糸瓜」のなんと無様で滑稽なこと。「一族(郎党)」という連体感もまた。(鈴木茂雄)
■だってもへちまもないシュールとも、あるいは大変厳しい体験の活写とも。(曽根主水)

雲が峰糸に吊られし科特隊  マリオ
◯竹井紫乙◯犬山入鹿◯トオイダイスケ
■「科特隊と」いう略称が、テグスで吊っていることのチープさをよりくっきりと見せた。「雲の峰」の大らかさも好対照(トオイダイスケ)
■入道雲の高さと少年の日のヒーローが合体(犬山入鹿)
■どのくらいの強度の糸なのかな・・・。私も一緒に吊られてみたいものです。色んな意味で涼しい句。(竹井紫乙)

夏去るとあはれ糸魚の婚姻色  照屋眞理子
◯生駒大祐
■「とあはれ」で採りました。(生駒大祐)

夏座敷着物に残るしつけ糸  吉野ふく
◯羽吟◯石鎚優◯幸市郎
■自然に順応して生きる古風な生き方において、たかぶる感情と抑制する理性のありようが、さわやかに感受される。「しつけ糸」には寓意がある。(石鎚優)
■新しい着物が用意されている心地よい空間、一本の糸が演出。(羽吟)
■夏座敷、2DKの我が家には無いものです。憧れます。(幸市郎)

夏深む蔵の二階に糸操り機  憲子
◯宮本佳世乃◯クズウジュンイチ◯かよ◯吉野ふく◯青木ともじ◯彩楓
■夏の蔵の二階のむわっとした空気、糸繰り機にたまった埃の匂いなんかも感じられる空気感のある句(青木ともじ)
■もう使われなくなった蔵の二階の糸繰り機。ひっそりと今は死んだふりをしているがたくさんの思い出と共に眠っている。(吉野ふく)
■ひんやりとした古いにおいの蔵、生命の喧噪から隔てられた場所で、季節が紡がれているように感じられる。(かよ)
■農家の蔵に、それも出し入れしない二階に古びた糸繰り機が放置してある景色が鮮やか。「夏深し」はダメですか?(クズウジュンイチ)
■夏が深まる明るさと蔵の階段の暗さを思いました(宮本佳世乃)

鬼火のやう釣糸のやう草いきれ  高橋洋子
◯光明
■鬼火も釣り糸も揺れ方が草いきれとマッチング(光明)

空蝉の背ナに白じろ糸のくづ  菊田一平
◯ハードエッジ◯あほうどり◯犬山入鹿◯中村遥
■なぜ空蝉の背に糸くずが付いているのだろうと連想させられる面白さがある。あたかも空蝉の割れたその痕を糸で縫ったかのように。(中村遥)
■熱帯夜をやり過ごし朝の無残が目の前にある(犬山入鹿)
■空蝉から別れのテープが流れ出ているようで余韻がある。(あほうどり)
■その糸を引くと何か起りそう(ハードエッジ)

県道へ一糸まとはぬ生身魂  鯨
◯ハードエッジ◯曽根主水◯渕上信子◯宮本佳世乃◯犬山入鹿◯クズウジュンイチ◯沖らくだ◯佐藤日田路◯林昭太郎◯きゅういち◯幸市郎
■「県道」の俗に「一糸まとわぬ」として「生身魂」を登場させる荒業、ですがなんか笑えます。(きゅういち)
■徘徊老人だろうか?国道でも村道でもなく県道なのが良いと思う(林昭太郎)
■非現実的であるはずなのに現実感が伴う恐ろしさ。(佐藤日田路)
■びっくり!インパクトに一票。この後、大捕り物になったのか、皆でありがたく拝んだのか。(沖らくだ)
■不条理な映像。「県道」が効いている。(クズウジュンイチ)
■自分が年老いてゆく怯えが生々しい(犬山入鹿)
■深刻な状況お察しします。明日は我が身とも。(渕上信子)
■ちょっと困った感じのフィギュアをロメロっぽい薄ら土地鑑付きの彷徨へと誘う「県道」がクール。(曽根主水)
■県道が効いてます。都会でもなく、田畑だけの田舎でもなく(ハードエッジ)
■見てしまった自分がただただ怖い(宮本佳世乃)
■一糸まとわぬって、タオルぐらい巻いて下さい。近所の病院の前に毎日上半身裸で座っている老人がいます。(幸市郎)

香水とジゴロ金に糸目をつけぬとも  瀬戸正洋

祭来る文字を豪奢に刺繍糸  小久保佳世子
◯トオイダイスケ◯一実
■「刺繍糸」の華やかさが祭の勢いまで感じさせる。(一実)
■祭に対する高揚感が、とても小さな部分を通して濃厚に描かれた(トオイダイスケ)

三伏やまた朝が来る錦糸町  中村光声
◯笠井亞子◯憲子◯村嶋正浩◯照屋眞理子◯沖らくだ◯菊田一平
■ゴールデン街じゃなく錦糸町というところがなかなか(菊田一平)
■錦糸町、事件がありそうな代わり映えしなそうな、そして三伏のあいだじゅう、暑苦しそう。この世の終わりでないかぎりまた朝は来るわけで、どんな夜を過ごしてそんなうんざりな気分になっているのか、エロからバイオレンスまであれこれドラマを妄想しました。(沖らくだ)
■「また朝が来る錦糸町」だけなら演歌の世界である。俳句を成立させているのは、そこに配したやや古風な季語と、「や」の切れによって生み出された格調だろう。定型詩の最大の魅力は、言葉の意味ではなく、形と音の説得力であるということの見本のような句だと思う。(照屋眞理子)
■「三伏」が錦糸町に適切な季語かどうか、「新宿」では「池袋」では、どうなのか、交換可能なのか。それは作者の思い入れによるものだが、地理的には「新宿」「池袋」は山手線にあり、「錦糸町」は総武線にあるのが決定的に大きな違いだ。汗臭い駅だ。余計な話だが、通学路の通過駅だった。(村嶋正浩)
■錦糸町がぴったり決まっている。(憲子)
■盆踊りが果てたあとの感じでしょうか?(笠井亞子)

仕付け糸きらり引き抜く夏衣  黒田珪
◯阪野基道◯石鎚優◯赤野四羽◯西村小市
■新しい夏衣のさわやかな感じがここちよい。「きらり」は作者の期待の気持ちの表れか。(西村小市)
■糸を引き抜く一瞬の所作の美しさ、爽やかさをとらえた。「きらり」と「夏」がよく効いている。(赤野四羽)
■人生の岐路にあたり、迷いを断ち切り、因習に反する決断をした光景がさわやかに描かれている。「しつけ糸」は寓意を帯びている。(石鎚優)
■娘に仕立てた浴衣には、まだ仕付け糸が付いたままだ。娘の着姿を思い描きながら、母親が仕付け糸に指を絡めて、すーと引き抜く、その情感、涼感がさわやか。(阪野基道)

糸くずのふるふるなびく南風かな  鈴木不意

糸つけてシオカラトンボ放ちけり  村嶋正浩

糸の先モンローウォークのタランチュラ  犬山入鹿
◯あほうどり◯野口裕◯彰子
■タランチュラの膨らんだお尻が私の顔面を叩いていった。(彰子)
■ダレンシャンを思い出す。(野口裕)
■モンローウォークが可愛く哀しい。(あほうどり)

糸ようじの通らぬ歯間夏の果  半田羽吟
◯瓦すずめ◯林昭太郎◯西村小市
■糸ようじが歯間を通らない閉塞感が物憂い夏の果とひびきあっている。(西村小市)
■いかにも健康そうな歯の持ち主に、いま夏が去ろうとしている。「夏の果」が何とも良い味を出している。(林昭太郎)
■暑さや夏が終わるという残念な気持ちや焦りと、糸楊枝の通らないイライラが、うまく合っているように思いました。(瓦すずめ)

糸引きに春を捧げた母の唄  あほうどり

糸瓜や郵便局は路地の奥  幸市郎
◯竹井紫乙◯青島玄武
■路地の奥に郵便局のあるような田舎町。途中に糸瓜の垂れる家がある。昼の暑さと町の閑けさをスッと切り取った素敵な句。(青島玄武)
■道に迷うのが辛い時と、楽しい時がありますが、この路地に入り込むのはとても楽しそうです。(竹井紫乙)

糸瓜忌の糸瓜を長く垂らしけり  ハードエッジ
◯信治◯高橋洋子◯酒井匠
■糸瓜は主体的に「垂らす」ことができるものだったか、という驚き。男根を想起もして、それと子規忌の取り合わせに、ふざけているのか本気かわからない(そのあわいの)妙を感じました。(酒井匠)
■糸瓜がぬぼーっとあたたかい。(高橋洋子)
■いいですね。「長く垂らした」主体はなにかと迷わせるところが、おもしろい。(信治)

糸巻きのからから回る終戦日  あまね
◯杉太◯中村遥◯黒田珪◯照屋眞理子◯石鎚優◯青木ともじ◯彩楓
■糸巻きの時代感とからからという擬音語の乾いた雰囲気がどことなく鞦韆の空虚感に響き合う。即物的であるのがいい。(青木ともじ)
■地球ほど巨大な糸巻きかもしれない。現代の多様な事象である「糸」が歴史という布地を織るのだが、「からから」回っているこの糸巻きにはどんな糸が巻かれているのか。歴史と虚無が見据えられている。(石鎚優)
■繰る人のいなくなったあの夏からずっと、この糸巻き車はからからと虚しく回り続けてきたのだろう。(照屋眞理子)
■糸巻きの軽い音が物資の乏しかった時代を彷彿とさせ、戦争の虚しさをも思い起こさせる。(黒田珪)
■じりじりと暑かったであろうあの日。今年もきっと空気も乾ききった暑い日であろう。そんな日は糸巻きもからからと回るに違いない。あの日から休むことなくからからと回り続けているような糸巻き。(中村遥)
■終戦の日についに糸が切れてしまったのか、ずっと前から糸なんてなかったのか。きっと後者だ。(杉太)

糸鋸盤並びて月の涼しかり  西川火尖
◯信治◯高橋洋子◯赤野四羽◯鯨◯吉野ふく
■美しい光景。月の光はやさしく労働をねぎらってくれている。銀の色色が静かで今はゆっくり休んでいる。(吉野ふく)
■町工場の夜、糸鋸盤には円い穴がある。月涼しで実際の月だけでなく月の隠れた原理が呼び起こされた。(鯨)
■昼間は喧騒とともに忙しく稼働している糸鋸盤。夜は静寂の中、ひんやりとした月の光に照らされる。動と静の対比が効果的。(赤野四羽)
■透明なおおきななガラス窓。(高橋洋子)
■金属の薄さに引き立てられる、月光の質感(信治)

糸魚川静岡構造線は朱夏  鈴木茂雄
◯黒田珪
■静岡の川は全て太平洋に向かい、南北に走るイメージがある。地質を分断するという豪快な構造線という言葉の持つ力強さ、強い日差しから朱夏という季語がぴったりくる。(黒田珪)

糸通しに顔のエンボス西日さす  冬魚
◯羽吟◯加納燕◯照屋眞理子
■この糸通し、我が家の針箱にもある。華眼を賜って以来、針に糸を通すのが至難の技となった。このイライラは永遠に続くのではないかとさえ思うような時、横顔が刻された小さな金属片のついた細い針金がそれを救ってくれる。「あるある」で頂きました。結句、動詞より名詞で終わる方が形がキリッとするかなと思いました。(照屋眞理子)
■日があたったことで、はっきりと浮かびあがるエンボス。気に留めていなかったことに気付く瞬間。(加納燕)
■糸通しのエンボスの横顔、私も句材候補であったがまとまらず。この句は西日を持ってくることによりエンボスの立体感/素材感/反射が強調され、働き手が生き生きと動き出した。(羽吟)

糸電話の相方遠し草いきれ  由季
◯かんな◯憲子◯村嶋正浩
■「相方遠し」がこの句の意味の大きなポイントである。糸電話なので当然距離的には近い。従って相手との心の関係性である。相手を思う強さはあるものの、その相手との心の距離感に痛めている。草いきれは、距離の近さにもかかわらず、埋められない暑苦しい思いを的確に示している(村嶋正浩)
■幼き日への郷愁。草いきれも佳いですね。(憲子)
■糸電話はもどかしいものですね。(かんな)

糸吐いて吾子もモスラも繭ごもる  守屋明俊
◯冬魚◯竹井紫乙◯犬山入鹿◯青柳飛
■自分の子とモスラを並べる大胆さが気に入った。(青柳飛)
■吾子を見いてる自分もいつしか繭ごもりたくなる(犬山入鹿)
■簡単には外へ引き摺り出せそうもありませんね。やれるものなら、自分がやってみたい繭作り。(竹井紫乙)
■「モスラ」の登場に驚き。しかも「吾子」と並列させているところが愉快です。思春期の怪獣の如き吾子。(冬魚)

糸偏の文字ではないが草いきれ  野口裕
◯鯨
■たぶん戀、恋でなく戀と呼ぶべき草いきれ。(鯨)

糸蜻蛉はくもりの朝に生まれける  上田信治
◯曽根主水◯生駒大祐◯憲子◯高橋洋子◯Y音絵◯吉野ふく
■そんな気がする。そして曇りの日にそっと生涯を終える、地味ゆえに美しい。(吉野ふく)
■生命の鮮やかさと倦怠感の重なりのなかに、「ける」の響きが決まっていると思いました。(Y音絵)
■そんな感じします。(高橋洋子)
■そんな感じがする。(憲子)
■糸蜻蛉とくもりの朝、よいですね。「けり」の方がよい?(生駒大祐)
■今回の「だんだんそうなんだと思えてくる俳句」がこの句でした。(曽根主水)

歯に切れば糸の味せり浴衣縫ふ  一実
◯犬山入鹿◯阪野基道◯林昭太郎◯Y音絵◯幸市郎
■糸の味について考察したことが個人的にはありませんでした。(Y音絵)
■縫い物の糸を鋏でなく歯で切った。感覚の鋭い作者だ。(林昭太郎)
■母はよく縫い糸を糸切り歯で切っていた。糸の味は、少し糊っぽい味がしたような気もするが、それは母の味でもあるのだ。その味を舌に記憶をさせながら針を動かす、そんな景が快い。(阪野基道)
■そんな母親の横顔を思い出す(犬山入鹿)
■糸には糸の味。土には土の味。食べ物ではない物にも味はあります。(幸市郎)

初恋を語る糸目の生身魂  瓦すずめ
◯かよ◯芳野ヒロユキ◯青島玄武
■「糸目」と描写したことで、その人の人生が立ち表れているような気がする。シンプルな中にも絶妙の深み。(青島玄武)
■「糸目」の用い方が素晴らしい。縄文から現代まで時代を超えたキャラクターをイメージできる。(芳野ヒロユキ)
■問わず語りなのか、問われたから語っているのか。わたしも初恋の話を聞いてみたい。(かよ)

女装家の一糸まとひて踊りけり  渕上信子
◯マリオ◯近恵◯犬山入鹿◯クズウジュンイチ◯鯨
■女装の完成は余剰を削った裸にあるのだと気づかされた。(鯨)
■季語としての「踊り」が機能しているかという問題はあれど、ゲイバーでの一場面とみて出色。(クズウジュンイチ)
■これはイッコウじゃないか。趣味ではないけどグロテスクでちょつと面白い(犬山入鹿)
■それは裸の男の踊り。一糸まとうというあたりの往生際の悪さがおかしい(近恵)
■見たくないので一糸があってほっとする。隠しているから悩ましい(マリオ)

小気味よい糸切りはさみ夜の秋  かよ

針と糸公武合体いたします  なかはられいこ
◯あほうどり◯守屋明俊◯阪野基道
■いつしか針の穴に糸を通すことの難しくなってしまった老いの視力に、糸通しを使ってでも針に糸を通すと、何と晴れがましい気分になるのだらう。公武合体とはその晴れがましさをいう。(阪野基道)
■針も糸も平等に合体し糸が通る。「公武合体」を持ってきた技。「いたします」は博奕の「入ります」と同じ使い方。(守屋明俊)
■公武合体というまさかの飛躍がよい。(あほうどり)

水眼鏡外し少女の糸切歯  佐藤日田路
◯冬魚◯かんな◯鈴木不意◯石鎚優◯酒井匠◯赤野四羽◯青島玄武◯羽田英晴◯西村小市
■日焼けした少女の健康な笑顔が鮮明に浮かび上がる。褐色の肌は水をはじいている。(西村小市)
■きれいだ。だれにでも生涯に一度だけはある美しさ。(羽田英晴)
■溌剌とした笑顔が実にまぶしい。モーニング娘。で言うなら、工藤遥。各々で検索を。(青島玄武)
■某「水着」と並ぶフェティシズムの一句。水から上がった瞬間を捉える写生の妙。 (赤野四羽)
■戦闘モードを終えて破顔する水泳少女、水着と言わずにそれがわかる品とエロさ。草城を思い起こさせられました。(酒井匠)
■糸切歯は犬歯、獲物を切り裂く牙。水から上がった少女が水眼鏡をはずし、それまで閉じていた口を開けた一瞬、小さな糸切り歯が見えた。幼い少女の映像と、今後の成長に寄せる作者の温かい思い。(石鎚優)
■プールか海か、どちらにしても夏の子供達は元気だ。(鈴木不意)
■「糸切歯」に焦点を絞って、少女の印象が鮮明になった感。(かんな)
■「少女」は笑ったのでしょう。動画を見るようです。少女がだんだん近づいて来て、最後は「糸切歯」のクローズアップ。(冬魚)

声糸井重里的な夏休  曽根主水
◯うさぎ◯羽吟◯村田篠◯瀬戸正洋
■糸井重里的な夏休みとは、「声」のことなのである。(瀬戸正洋)
■句の構造も糸井重里的。(村田篠)
■トトロ。が出そうなところへ出掛けたのだろう。コンパクトにテンポよくまとまっており楽しい。(羽吟)
■言われてみると糸井重里は夏休み的な人ですね、声の柔らかさも。(うさぎ)

西日差す奥歯に糸を掛けにけり  うさぎ
◯上田信治◯高橋洋子◯あまね
■「西日」の中で正に中途半端な状態でいる何かあるいは誰かを想像し、そして掛けられた「糸」の本気とも遊びともいえない美しさをスケルツオと呼びましょう。(あまね)
■もしかして抜歯?ワイルド。(高橋洋子)
■デンタルフロスか。口の中にまで、西日がさしたような言い方がおもしろい。(信治)

赤い糸やがて鎖となる酷暑  西村小市
◯渕上信子◯鈴木茂雄◯阪野基道◯瀬戸正洋◯菊田一平
■いやいやご同輩。いかにもです(菊田一平)
■連れ合いが鎖<腐り>であるとは正しいことだ。「赤い糸」などと言っていた頃の自分の甘さを反省しなくてはならない。(瀬戸正洋)
■赤い糸が桎梏の鎖になるといえば、中年以上の夫婦であろう。拭っても拭っても汗の滴る夏は、いわば愛の鎖か。(阪野基道)
■きわめて川柳的な句だが、季語「酷暑」の極北のベタ本意。川柳的もベタ本意も、もちろんホメコトバ。(茂雄)
■なるほど! 運命とは過酷なものですね。(渕上信子)

葬列についと加わる糸蜻蛉  青島玄武
◯羽吟◯青砥和子◯渕上信子◯石田遊起◯村田篠◯笠井亞子◯犬山入鹿◯高橋洋子◯西村小市
■畑の中の道を行く葬列。加わったのは羽黒蜻蛉に違いない。(西村小市)
■うっすらまじっていそう。(高橋洋子)
■昔風だね。初盆の淋しさを思い出す(犬山入鹿)
■「ついと」。これは見た事があるなあ。(笠井亞子)
■まるで引かれたように。「ついと」が糸蜻蛉の動きそのもの。(村田篠)
■糸蜻蛉の細い線が悲しみの涙のよう(石田遊起)
■「ついと加わる」が上手い。訳あって通夜にも告別式にも出られなかった人の生霊では。(渕上信子)
■昔の田舎の葬列がうかびます。「ついと加わる」が糸蜻蛉の飛びかう様子をうまく表現していると思いました。(青砥和子)
■水辺に近い静かな葬列なのだと思う。(羽吟)

大鱧の口より糸の端が洩る  クズウジュンイチ
◯冬魚◯西川火尖◯羽吟◯酒井匠◯Y音絵
■類想があるかもしれませんが、この句を読んで鱧を食べたくなりました。(Y音絵)
■鱧釣りをしたことがないのでわかりませんが、実際に見たらきっと句にしたくて仕方がなくなる景だろうと思いました。どこかめでたさも感じました。(酒井匠)
■迫力がある。(羽吟)
■少し怖い風貌からひょろりと糸が洩れている、そういった可笑しみや違和感が心地よいと思いました(西川火尖)
■「大鱧」の鋭い歯に絡まった釣り糸が、針を取っても残っています。「糸の端」に見る大鱧の逞しさと哀れ。(冬魚)

短冊が身を任せてる柔い糸  光明
◯西川火尖
■糸を細いではなく柔いと表現したところに、身を任している糸の手触りのようなものが感じられてよかったです。(西川火尖)

短夜の鏡は厚し糸やうじ  Y音絵
◯生駒大祐◯高橋洋子◯トオイダイスケ
■「糸やうじ」で歯や歯茎の繊細な感触を思わせることで、鏡の厚さを際立たせている(トオイダイスケ)
■鏡が厚い。がいいですね。糸やうじの仕草もおもしろい。(高橋洋子)
■糸ようじは置かれている、すなわち無人の景と読みました。(生駒大祐)

蜘蛛の糸光るや月に愛されて  中村 遥
◯守屋明俊◯青木ともじ
■あの綺麗な糸の様子をとても丁寧に慈しんでいる句だと思う。月にと書きつつ、愛しているのは作者自身なのだろう。(青木ともじ)
■昼間でも蜘蛛の糸は美しい。月に愛され、恍惚の蜘蛛とその糸。(守屋明俊)

蜘蛛の糸虹色にして夏旺ん  石田遊起
◯信治◯黒田珪
■キラキラと七色に輝く蜘蛛の糸。従来のイメージとは全く違う景を詠んで新しい句を作り上げている。(黒田珪)
■ほんとに虹色だったか、と思い出すように誘っている。(信治)

昼寝ざめ糸吹く夢の口をする  加納燕
◯近恵◯杉太◯石原明◯トオイダイスケ
■「口をする」が実感あった。口の形を何々にする、でなくて「夢の中でしていたあの口」を「する」ことが(トオイダイスケ)
■蜘蛛になった夢を見たのだろうか。白昼夢的なところがよいと思いました。(石原明)
■夢で口から糸を吹いていたのか、垂れさがった糸を息で吹いていたのか。どちらにしてもずっと続けているのは不気味ですね。ああ、夢だったと。(杉太)
■夢で蜘蛛にでもなったか。糸吹く口というのが意外(恵)

釣り糸の切れた反動夏終わる  近恵
◯守屋明俊◯瓦すずめ◯西村小市
■扉が閉まる音など何かが終わったと感じる出来事というものがある。釣り糸が切れたときに夏は終わったのだ。(西村小市)
■釣り糸の切れた反動で、しりもちを尽く姿が面白いですね。釣りが中断され、空が目に入り、今まで意識してなかった風を感じる。そんな状況で、「夏が終わるんだなあ」と呟く。いかにも共感できる句です(瓦すずめ)
■夏が終わるこの一瞬の出来事の意外性。情景鮮明でその躍動感が新鮮だ。(守屋明俊)

二の糸の切れ変調の晩夏かな  彩楓
◯生駒大祐
■「の晩夏かな」の締め方、よいですね。(生駒大祐)

撚り糸を戻す男女の短夜かな  阪野基道
◯犬山入鹿
■短夜は未練の表現か?男女に長夜は厳しすぎるじゃないの(犬山入鹿)

納豆の糸不器用に夏料理  青木ともじ

抜糸までの日数かぞふる涼しさよ  杉太
◯由季◯光明
■何の手術でしょう?回復近い爽やかな高揚感に惹かれました。(光明)
■癒えてゆく間の静かな日々。それを涼しさと捉える感覚にひかれました。(由季)

晩夏へとゆっくり抜けてゆく糸よ  笠井亞子
◯西川火尖◯村田篠◯宮本佳世乃◯クズウジュンイチ◯憲子◯怜◯照屋眞理子◯石原明◯光明◯小久保佳世子◯青木ともじ
■漠然とした句だが、ほつれた糸を抜いたりするときのすっとした感覚と、同時にかすかにある抵抗力が晩夏へむかう感覚に近いというのは不思議と共感した。(青木ともじ)
■比喩としての「糸」をどう読んだらいいのでしょうか。糸は「思い」或いは「時の流れ」かも知れません。(小久保佳世子)
■ゆったり、ゆっくりとした時間の流れが見えるようです。(光明)
■「ゆっくり」が晩夏のけだるさを引き出していると思いました。(石原明)
■具体的で意味のよく分かる句というのは、詩としてはあまり面白くない。この句、なんだかよく分からない。けれども、その終わりに向かって、夏というのは、始まった時から寂しい季節なのだと思わせられた。(照屋眞理子)
■抜けてゆく糸には玉結びがない。後追いで気付く移ろいへの視点。(怜)
■夏を惜しむ思いが柔らかく、ゆったりと表現されている。一番好きな句。(憲子)
■どこから抜けるのかは明示されていないが、ゆっくりと季節が動いていく様子と不思議と同調する。(クズウジュンイチ)
■いろいろな場所から糸が抜けていきそう(宮本佳世乃)
■糸にフォーカスしてなおかつスローモーション。主役は糸。(村田篠)
■夏の終わりへと全てのものが向かっていく自然の運行は確かに、するすると糸が抜かれていく様子に通じると思いました。(西川火尖)

瓢箪の棚キリキリと嫉妬  彰子
◯石鎚優
■ぶら下がっている瓢箪の飄々としたありよう、「きりきり」が連想させる行為の残酷さと鋭い音調、嫉妬の拷問を受けている心のありよう。この三種類の異質の断片を対峙させることに詩を見ようとする五七五の新しい文体か。(石鎚優)

噴水に母はゐませり針と糸  石鎚優
◯生駒大祐◯彰子
■「噴水」の現在、「母はゐませり」過去を紡ぐ。経過の巧みな表現。(彰子)
■主は来ませリみたいですね。針と糸が効いている。(生駒大祐)

母の歯に糸の切らるる夜の秋  トオイダイスケ
◯ハードエッジ◯石鎚優◯林昭太郎◯赤野四羽
■こちらも糸切り歯ネタながら、秋らしい郷愁を表現した。糸を切るのではなく糸が切られるのが俳句的。(赤野四羽)
■やはり、この句には「夜の秋」だろうと思う。(林昭太郎)
■秋の夜、静かに裁縫をしながら口を開いて糸を切っている一人の母。上五中七の即物的な表現が母の生き様に対する作者の感動を静かに伝える。母の歯に切られる「糸」には寓意があるだろう。(石鎚優)
■母の歯が微妙に怖いです。原典未確認ですが、月の家の母の歯の音をきく夜かな 桑原三郎(ハードエッジ)

峰雲や糸の目指せる針の穴  林昭太郎
◯うさぎ◯渕上信子
■峰雲という大きいスケールと針に糸を通すという細かい仕事の取り合わせの妙。まず遠方を見て目を休めてから針の穴を見ます。(渕上信子)
■小から大へ。糸と雲の白さと。日常のちょっとした行為が劇的なものに生まれ変わる瞬間。(うさぎ)

夕立が糸ならばやさしく頸を絞める  生駒大祐
◯近恵◯宮本佳世乃◯野口裕◯犬山入鹿◯阪野基道◯瀬戸正洋◯青柳飛
■糸である夕立とやさしく誰かを絞めることの因果関係が解ったとは思えないが、妙に惹かれた。(青柳飛)
■頸はやさしく絞めなければならない。夕立が糸ならばやさしく絞めることができる。ひとはどんなときでもやさしくなくてはならないのだ。(瀬戸正洋)
■何と怖い句であろう。何の恨みがあるというのか。愛と憎しみの持つ繊細さが「夕立が糸」にこめられ、情感が一気に、しかも静かにほとばしる。(阪野基道)
■頸絞めるものはいろいろあります(犬山入鹿)
■基角の蚤の句に匹敵しそう。(野口裕)
■平仮名が多いところに、ゆるやかな狂気が表れている(宮本佳世乃)
■ややロマンチックだけれど、ちょっと怖い(近恵)

冷やし中華錦糸卵の婀娜たるや  酒井匠
◯信治◯一実
■錦糸卵のあのつやつやした感じを「婀娜」とは。下五の「や」の詠嘆もいい。(一実)
■冷やし中華のノスタルジーをちょっと女性寄りに言ってみた。(信治)

杼のすべる糸のあはひや青簾  沖らくだ
◯羽吟
■はたおりと簾の印象が近く、涼しいの二乗だ。(羽吟)

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