2016-10-30

【週俳9月の俳句を読む】 くっきりとした秋 牧萌子

【週俳9月の俳句を読む】
くっきりとした秋

牧萌子

秋はセピア色を帯びた気持ちになる。それは、少し淋しく悲しい、周りから取り残されたような気持ちだ。しかし、世界は、鮮やかな花やあたたかなひかりにあふれている。そこで、わたしは心のもの悲しさと裏腹に輪郭や色のくっきりとした四句について、俳句の中の色とひかりに注目して鑑賞したい。 

鼻歌や長芋擦り過ぎてしまふ 冬魚 

鼻歌を歌いながら長芋を擦っていたら気分がのって擦り過ぎてしまった、そういうありふれた日常を切り取った句である。秋のひかりがキッチンをあかるく照らす中、伸びやかでリズミカルな鼻歌と、ねっとりとひかりを透かして伸びる長芋があかるくのびのびとしたもの同士よく合っている。とても幸せそうだ。 

酔ひ醒めの睫毛に白毛ある秋夜 茸地寒 

飲み疲れてぼーっとしていたのだろう。秋の夜も深まってひっそりとしてきた頃、徐々に酔いも醒めてきて隣で眠っている人の睫毛に白毛があることをみつけた、そういう些細なおどろきを詠んだ句だと思う。それは、詠者の優しく繊細な視線あっての発見だ。ダウンライトの中、漆黒の睫毛とその中の一本の白い睫毛のコントラストがとても美しい。 

浜辺に吹くトランペットや曼珠沙華 嶋田恵一 

秋の海は淋しげである。そこに華やかな音と外観をもち、孤高の存在であるトランペット、そして、毒々しいまでに鮮やかな曼珠沙華というふたつのものが、褪せた浜辺の中に異質なものとして存在している。それによってトランペットと曼珠沙華の輪郭はよりくっきりと見えてくる。狙いを定めた写真のようだ。 

ミニカーを戻し放つや廊冷ややか 小澤實 

このミニカーはおそらく、後ろに少し引っ張ってから手を離すと、まるでピンと張られたゴムが飛ぶような勢いで、走りだすタイプのミニカーのことだろう。そしてきっと、原色でぴかぴかとしていて、目にぱっと飛び込んでくるような見た目をしたミニカーだ。そのミニカーが薄暗く冷ややかな廊下を疾走し、そしてあるとき、壁にぶつかるか勢いを失うかして、止まって命が失われたようになってしまう。着々と迫りくる冬を予感する句だ。

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