2016-10-30

『文の京WS来たれ俳句女子!俳句男子!「チームde俳句連作」』参加ルポ 平田彩乃

『文の京WS来たれ俳句女子!俳句男子!「チームde俳句連作」』参加ルポ

平田彩乃


『文の京WS来たれ俳句女子!俳句男子!「チームde俳句連作」』
(二〇一六・一〇・九実施) 
佐藤文香×東大俳句会(青木ともじ)in 文京区立森鴎外記念館



ひんやりとした空気に秋を感じる俳句日和、文京区立森鴎外記念館には中学生、高校生、大学生、さらにOGまで合計一五人の若者が集った。受付でチーム分けを教えてもらい会場に入る。佐藤さんと青木さんから、若い人が学年や学校を超えて句会をする機会を作りたかった、今日は俳句しりとりを通してゲーム感覚で俳句を詠んでほしい、というお話のあったあと、早速俳句づくりに入る。

簡単にルールを説明すると、前の人の句の最後の一文字をとって次の人は最初の一文字とし、チームで一五句の連作作品をつくる。季節の指定もあり、第〇句〜第一句は秋、第二句〜第四句は冬、第五句は新年、第六句〜第九句は春、第一〇句〜第一三句は夏、第一四句〜第一五句は秋と季節が巡る。さらにお題が出ている枠もあり、第二句は「森」、第五句は「新年の遊び」、第八句は「鴎」、第一一句は「恋の句」、第一四句は「外」となっている。(「森」「鴎」「外」については各字を詠み込み、「新年の遊び」「恋の句」についてはテーマとして詠む)。ちなみに第〇句が「月に来て又この塔にのぼらばや」(森鴎外)と初めから決められているので第一句の最初の文字は「や」だ。俳句はチームメイトに手を貸してもらっても、ひとりでつくっても良い。制限時間は一句三分。しりとりや季節、お題に縛られ時間に追われながらどんどん詠んでいく。

実は私は、俳句をつくるのは高校二年で文学部を引退してから初めてのことであった(佐藤さんのご著書はたまに拝読していたけれど)。そのため、自信ゼロだったのだが「チームde俳句」なのだから周りの方に助けてもらえるだろうという軽い気持ちで臨んだ。ルール説明のプリントを見たときに不安がよぎったが、きちんと《三分ではつくれないぞという人のために》というコーナーがあった。紹介しておくと、一.はじめの文字がわかったら、その文字で始まる季語以外の四音の言葉を考える(例:ややじるし)。二.助詞を置き、七音を続ける(例:やじるしの転がっている)。題がある場合、そこで入れる。三.いい感じの季語を探して付ける(例:やじるしの転がっている秋の川)。ということであった。私のチームでは、とにかく良さそうな言葉をみんなで口々にたくさん出した。最初から頭の文字が決まっていることもあり、基本的には上五、中七、下五と順番に進めるが、使いたい言葉や季語を見つけた時には、「これを使いたい!」と申告しておき、他のところを考えていく。我がBチームでは「森は生きてる」「ずっと風」「るさんちまん」「小林君の鼻」「みどりの日」「日曜日」「ななめ前」などの言葉が出てきた。名詞1つだけではなく名詞+助詞や副詞+名詞など、本当に様々な言葉が出てきた。詠む番の人は、その中から気に入った言葉をメモしつつ、一,二個に絞る。チームメイトはそれぞれ頭に浮かんだ言葉をぽんぽんと出し続ける。「〇〇の中の」「ななめ前///右…」というヒントの出し方もあった。私が高校生の時俳句をつくる上で一番困ったのは言葉が出てこなかったことだ。だから、周りがこうして助けてくれるのは非常に助かった。この場の雰囲気が、友達と話しているかのように軽くて楽しく、新鮮に思ったことは書いておきたい。難しくて苦しい感じが全くなかった。

そうこうしているうちに五七五の枠が埋まる。この時点で次の句に移るが、当人が仕上がりに納得していない場合やタイムオーバーしてしまった場合は最後の文字だけを決めた上で、もう少しだけ一人で考える。出来上がってみると、なんと、俳句っぽい。いや、俳句が出来ていた。

怒涛の十五句ののちに他チームの句の鑑賞タイムに入る。チームごとに良い句を一〜二句、また連作全体の雰囲気をそれぞれ発表し、最後に多数決にて最もよかった一連を決することが伝えられた。さらに、連作を鑑賞するポイントとして、最初から決められている頭の一字や季節、詠み込むお題をどうカバーできているかが挙げられた。

鑑賞タイムでは、チーム内でまずそれぞれ他チームのどの句が好きかを言い合った。その中ではこの流れがいいという、何句かに渡った感想もあった。いろんな人の意見が聞けて興味深かったが、時間が短かったため、何故良いと思うのか、良くないポイントがあるとしたらそうすればもっといい句になるのか等、踏み込んだところまで議論することができなかったのが心残りである。

各チームの発表の中は次のような内容であった。Aチームの句で人気が高かったのは〈なぞなぞの思考回路は冬の雲〉(中田怜)で、「なぞなぞ」から「思考回路」や暗鬱で寒々とした(ここでは曇りの日や雪の日だと思う)「冬の雲」と続けることで全体的になぞなぞ感を出すことに成功しており、また頭の「なぞなぞ」ではなく「思考回路」に注目しているところが面白い。〈星の景すごろくにひろがつてゐる〉(宮﨑莉々香)は「星の景」に集中しすぎていないところが箱庭から空に視界が「広がる」ようで面白かった。しりとりとしては、第九句〈空つぽの春すべて咲いてゐる春〉(荻原武)から第一〇句〈春は夏へみはらしおもひでにつなげ〉(宮崎莉々香)へのつながりに季節の移り変わりを上手く利用していた。

次にBチームの句では〈るさんちまん双六一回休み五回〉(小林大晟)における「るさんちまん」のひらがな表記が新鮮な印象だった。最初の文字が「る」で始まるという縛りを上手く良い効果に変えている。〈なほ受験小林くんの鼻厚し〉(今泉礼奈)の「小林くん」は実際に誰なのかはわからない。しかしそれでも「小林くんの鼻は厚そう」と思わせられる、説得力が感じられた。〈ずっと風くじらの中の水回る〉(平田彩乃)は「風」と「くじらの中の水」に中と外の循環が連想された。また、大きなスケールをわかりやすく表現できていた。しりとりでは、夏の句〈げんこつをほどけばパーや金魚売〉(佐藤和香)から秋の句〈売春の外国人や秋の窓〉(平田彩乃)へのつながりが面白かった。

最後に、Cチームの句は〈野球部の花火に女子のゐたりけり〉(瀬名杏香)が新鮮で、羨ましそうな感情が伝わってくる。前の句〈くちびるが風と親しくなる夏野〉(青本柚紀)の「野」を「野球」にしてしまうところも意外な発想で面白かった。また、第〇句〈月に来て又この塔にのぼらばや〉(鴎外)から第二句〈やはりそれはカンナに触れてきた指だ〉(瀬名杏香)では「やはり」が第〇句に想いを馳せるきっかけとなり、続く第二句〈だが森は冬夕焼の最中なり〉(坂入菜月)の「だが」と相まって連続的で、その繋がりに気づいた時にハッとする。他にも第三句〈りふじんな寒鮒浅い夢を見る〉(三内悠吾)、第四句〈るんとうの膝は短し帰り花〉(佐藤文香)、第五句〈花の夜の了はりのごとき歌留多かな〉(青本柚紀)と、夢のような非現実感が漂う句が三句続いており一瞬空気が変わった。

また、各チームの発表にはこんな批評もあった。Aチームには、「第六句〈るびの要る住所へ越して初桜〉(鈴木啓史)の面白さを第七句〈桜ではない木に集ふ夕花見〉(青木ともじ)が消している。」(Bチーム)、「〈しんしんと森崩さるる寒さかな〉(青木ともじ)や〈げじげじやとほくの人に恋をする〉(鈴木啓史)、〈ふはふはや鳩に秋くる公園の〉(宮崎莉々香)、〈なぞなぞの思考回路や冬の雲〉(中田怜)、〈るいるいと女系なりけり衣更〉(青木ともじ)など音の繰り返しが出てくる表現方法が多い。」(Cチーム)。次にBチームは「文語句と口語句の両方がある。」(Aチーム)。いずれも連作としての構成に対する言及である。最後にCチームには、「まずチーム名〈クロホシマンジュウダイ)が変。」(Bチーム)。「全体的にしりとりが上手い。」という評価はAチーム・Bチームともに共通しており、一句一句は風変わりであるが、流れとしては面白くまとまっているのがこのチームだったように思われる。

各チーム同士で感想や批評を述べたのち、多数決によって優勝はBチームが勝ち取った。以下、優勝チームの連作を記載する。 

Bチーム(チーム名:KOBAYASHI
月に来て又この塔にのぼらばや(森鴎外)
ややありて水のおもては葉鶏頭(堀下翔)
頭より鳥抜けてゆく冬の森(今泉礼奈)
森は生きてるマフラー巻いて何もせず(佐藤和香)
ずっと風くじらの中の水回る(平田彩乃)
るさんちまん双六一回休み五回(小林大晟)
回船が俵をこぼす紫雲英かな(堀下翔)
なほ受験小林くんの鼻厚し(今泉礼奈)
しらじらと鴎の空やみどりの日(佐藤和香)
日曜日北窓開く右手かな(平田彩乃)
ななめ前の浴衣を目印に歩く(小林大晟
くわんぜおん恋ひしかば瓜咲きてゐむ(堀下翔)
むさし野を掴んでゐたる青とかげ(今泉礼奈)
げんこつをほどけばパーや金魚売(佐藤和香)
売春の外国人や秋の窓(平田彩乃)
窓の縁より朝寒の迫り来る(小林大晟) 

閉会式では青木さんより「楽しい二時間だった」「学生句会でもやっていきたい」、佐藤さんより「俳句は一人でやることが多いが、人と見たり話したりする面白さもある」「こういうゲームを作ってみるのも面白い」と講評があった。さらに、佐藤さんの推しの俳句が読み上げられた。中でも今まで挙がっていなかった句がAチーム〈川越の外科医月見団子食らふ〉(荻原武)である。とことん特定しているところに面白さが見出された。参加者からは「面白かった」と笑顔が見られ、「チームde俳句」は盛況のうちに幕を閉じた。

前述した通り、私は俳句から随分離れていたし、実はこの会のように他の人と俳句をやることはもっとも苦手だった。その場で他人から評価を受けるからだ。そんな私にとってこのような体験は初めてのことであった。高校時代、図書館で毎月一回開かれていた俳句連盟の方々との句会に参加したことがあった。結論から言うと、よくわからなかった。したがって面白いとも楽しいとも思わなかった。今回、俳句をつくることも人に見てもらうことも、人の俳句について語ることも、気軽にできた。同年代で、先生生徒や先輩後輩という関係性がないからこそ、あまり周りを気にせず楽しめたことが嬉しかった。また、自分やチームの句が出来上がった時、評価された時が嬉しかった。俳句に興味があって、でもどうしたらいいかわからない私にはぴったりの企画だったと思う。この場を企画してくださった佐藤文香さんと青木ともじさん、森鴎外記念館の方、参加者の皆様、旅先にて偶然に出会い、その縁で今回寄稿の機会をくださった堀下翔さんに、改めて心より感謝を申し上げたい。

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