2017-01-01

【週俳10月11月の俳句を読む】学生に戻りたい。 野住朋可

【週俳10月11月の俳句を読む】
学生に戻りたい。

野住朋可


塔といふ涼しきものや原爆以後    樫本由貴

原爆以後という語が重たく効いている。原爆投下から今までの時間の経過であり、今現在であり、またその間の土地の変化である。塔は土地を見渡すもので、風通し良く涼しいものとして描かれているが、そこに佇む作者の姿や思いまで読み取れる句だ。

水澄みて口笛吹けばそれも澄む    野名紅里

自分が生み出すものが、水と同じように澄んでいくという嬉しさ。絶え間なく流れる水と、伸びやかに響く口笛の対比が心地よい。口笛だけでなく身体の隅々まで澄んでいく感じがあり、作者の健やかさを感じる。

傾くと霧とは軽き眠りかな    福井拓也

「霧とは軽き眠りかな」が、自分だけの発見だぞ、という感じで良い。上五に具体的なモノを置かず傾くという行為にすることで、句全体に霧がかったような雰囲気が生まれている。松本てふこ氏の指摘のように、異国の景色の感覚である。

友とゐて友の姉来る草紅葉    斉藤志歩

「友の子に友の匂ひや梨しやりり    野口る理」を思い浮かべた。友情、嫉妬、好奇心…入り混じる感情は、草紅葉の複雑に変化する色彩によって鮮やかに表現されている。当然のように女の句と読んだけど、この友人とその血縁に対しての微妙な感覚は、老若男女問わずなのだろうか。

台風一過両耳をよく洗ふ    平井湊

「学生俳句」特集の中にこういう句があると、うむ、と思う。当然だけど、若さの中にも老成や渋みがあるのだ。台風一過という不穏な空気感の中で、念入りに洗われている耳。それが捉えているのは、自然が生み出す音か、あるいは自らの中から湧き出てくる音か。


とっくに卒業しているのだけど、学生と句会をする機会は多い。学生はいろいろ大変だと思う。まず第一に、自分のスタイルを選択しないといけない。ガチで俳句をやるのか? 趣味としてゆるゆる? 学業やアルバイト、サークルとの兼ね合いはどうするか? など、悩みは尽きない。第二に、学生の時点で俳句を始めて何年か経過してくる場合が多く、「自分に俳句のセンスがあるか」というキツい問にも向き合い始めないといけない。多くの学生が石田波郷新人賞などの受賞を目指すが、皆どこかの段階で一度はこの問に直面するのではないだろうか。

個々の置かれている状況は様々である一方で、「我ら学生」という連帯感は確実に存在する。そのため「学生」という枠組みに括って俳句を読むことは、非常に意味があるはずだと思っている。


加藤静夫 失敬 10句 ≫読む

第497号 学生特集号
樫本由貴 確かなあはひ 10句 ≫読む
野名紅里 そつと鳥 10句 ≫読む
福井拓也 冬が来るまでに 10句 ≫読む

第498号 学生特集号
斉藤志歩 馬の貌 10句 ≫読む
平井湊 梨は惑星 10句 ≫読む

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