2017-02-19

名句に学び無し、なんだこりゃこそ学びの宝庫 (28) 今井聖

名句に学び無し、
なんだこりゃこそ学びの宝庫 (28)

今井 聖
 「街」123号より転載

FXポンド林檎が刺さりそう 
金谷佑策(2016年・第19回俳句甲子園)

なんだこりゃ。

 エフエックスポンドリンゴガササリソウ

去年の俳句甲子園で僕が優秀賞(個人賞)として選んだ一句である。(林檎)という兼題が出ていた。

いやあ、この句を見たときはびっくりしたなあ。

審査員が十三名居たのだが個人賞はダブルことなく皆別の句を挙げた。僕は一読してこの一句に驚いて立ち止まり、そのまま迷うことなくこの句に決めた。

FXポンドとは外国為替証拠金取引こと。英国通貨ポンドを円で安く買い、ポンドが高くなったところで円に両替すれば為替差益が出る。その取引のことを言う。

数千円からこの取引は可能なので、作者はおそらく実践しているのだと思う。

「林檎がささりそう」は英国がEU離脱のときにポンドは大きく揺れ動いた。そのグラフの形が鋭く尖っていることを指している。

審査員が高校生の俳句に求めるものは何だろう。

他の十二名が個人賞に挙げた句を列記してみる。それぞれの句は兼題が出ているのでそれを付記した。

短夜や大陸少しずつ動く (短夜)
町たのし浴衣の子らに道問へば (浴衣)
サーカスの獣はしづか天の川 (天の川)
銀河噴くために蛇口は上を向く (天の川)
一切は足音と風天の川 (天の川)
先生も浴衣になってゐる夜だ (浴衣)
難民のキャンプに轍天の川 (天の川)
カーラジオ消す天の川流れ出す (天の川)
海あたらし勝利のやうにヨットの帆 (利)
藍浴衣ことばは人間を使ふ (浴衣)
天の川現人神の頭蓋骨 (天の川)
鉄棒に腹くいこませ銀河見る (天の川)

そして、最優秀賞は論議の上、

豚が泣く卒業の日の砂利踏めば (利)

に決まった。みな自分の推した句にこだわるといつまでも最優秀作がきまらないので、僕も最終的にはこの句で佳しとしたのである。

これらから高校生の傾向ひいては指導者の指導の傾向がうかがえる。傾向はすなわち大人の選者に向けての「傾向と対策」でもあるから、露呈しているのは選んだ側の内実でもある。

「短夜や」は科学的知識、「藍浴衣」は社会科学と言おうか、それぞれ知識が生かされているが類型無しとしない。

「町たのし」、「豚が鳴く」は、ともに末尾が「ば」の設定で終わる。伝統的叙法がしっかりと生かされているが、内容は守旧的と言おうか。まあ、堅実とも言える。

「サーカス」、「一切は」、はロマン。厳しく言えば近代自由詩的ロマンで決して新しくはない。中原中也的とでも言おうか。新興俳句のモダニズムはずっとこれでやってきた。

「銀河噴く」、「海あたらし」は、青年らしいエネルギー。余りにも「らしい」ので僕は賛成しない。もっと屈折してほしい。

「先生も」、「鉄棒に」、は学園もの。舟木一夫や森田健作の世界とそれほど変化ない。

「難民の」は、難民を出現させている側に対する?が無いのでは。現象だけを追っているというより誰がどう悪いのかの判断をほのめかすことをさける処世があるのではないか。

「現人神の頭蓋骨」は戦後すぐの天皇の「人間宣言」を言っているようで今更の感がある。

悪口ばかり言っているようだが、どの句も「大人の句」の水準をはるかに超えている。仮にこれらの句が「街」の句会に出たらすべて予選には取ります。

FXポンドの句の魅力は、「高校生のあるべき姿」の通念を破っていて、しかも、その破り方が新鮮。

寺山修司の時代では、煙草、情事、競馬、競輪、オート、競艇なんかが、やさぐれでデカダンだった。「砂山の砂を指で掘ってたらジャックナイフが出て来たよ」が「不良の日常」だった。こんなこと今は田舎の不良でも言わない。

今の高校生にFXポンドやってるよと言われて驚かない「大人」が居ようか。

「大人」が考え得る反通念をはるかに超える本物の反通念だ。しかも、この林檎、比喩だから季語じゃないなんてうるさい大人は言いそうで、その分、季語をコケにしてるとも言える。そこも実にいい。

高校俳句部の指導者がこんな俳句を作るように指導しているとしたら、その指導者こそ天才だ。

俳句甲子園の会場を出るとき、僕に駆け寄った佑策さんと固く握手を交わした。佑策さん、どうぞ、このまま、このまま。でも「このまま」は難しいよ。

なんだ、こりゃこそ学びの宝庫。

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