2017-07-30

金原さん、そのうちどこかでお会いしましょう。 関悦史

金原さん、そのうちどこかでお会いしましょう。

関悦史


これは他にも何人かの人が同じエピソードを書くことになるのだろうが、去る7月22日に、小津夜景さんを囲む《『フラワーズ・カンフー』を祝う会》に行ったら、会の終わりに贈呈用の花束が出てきて、それがなんと金原まさ子さんからのものだったので会場から嘆声があがった。「かっこいい」との声もあった。金原さんご本人はもちろんこの会が催されるひと月近く前の6月27日に亡くなっている。その前に手配されていたわけである。

5月にあった私の出版記念会にもお祝いをいただいていたのだが、金原さんからは、こちらが句集評や鑑賞の類を書くたびに、感激もあらわな手紙や、ワイン、食品などをいただいていた。他にもそういう人は少なくなかったようだ。私が最後に送っていただいたのは冷凍の参鶏湯ではなかったか。と、思って句集を見返したら、『カルナヴァル』のなかに《参鶏湯沸々「鉄の処女」ひらく》なる一句があったので、お好きだったのかもしれない。

こちらが金原さんの娘さん宛にメールを出すと、ネットを見ることはできる金原さんから手書きの手紙が来るというかたちで、私とのやり取りは行われていて、結局、生前直接お会いすることはなかった。全然そんな気がしないのだが。私のツイートなどまで追っていてくださったようである。

電話は何かの折に一度さしあげたことがあったが、当時もう突発性難聴(普通若い人に多い病気らしい)が出ていたので、受話器ごしでも、途中からこちらの声が聴きとれなくなってしまった。

手紙が毎回面白くて、去年12月にもらった手紙では、最近書いたという略歴が同封されていた。「現在105歳10ヶ月だが、104歳までは不感だった加令現象に悩まされている」などとあって、この人の身体はどうなっているのだと吃驚したが、その「加令現象」が出始めた翌年、ついに亡くなってしまった。もう金原さんについて何を書こうが、手紙は来なくなってしまったわけである。

ご本人のキャラと存在が際立っていたゆえの人気でもあったが、今後は句を語りついで残さなければという話に、フラカンを祝う会の会場でなった。何度も何度も繰り返し引っぱりだし、語りついでいかなければ、いかなる句でも残らないのである。

取り急ぎ、『遊戯の家』と『カルナヴァル』から各10句引く。本当はもっと引きたいのだが、絞らなければ印象が拡散するばかりなのでこの程度にとどめる。


『遊戯の家』

春暁の母たち乳をふるまうよ

細螺(きしゃご)になった水やりを忘れたから

焼却炉より鱶のかたちが立ち上る

宦官がゆくよ糞ころがしが蹤くよ

金魚玉透かすとマチュ・ピチュが見える

両性具有とは蓴菜とじゅんさいの水と

永遠の愛誓いて兜虫差し出す

たあと叫ぶ尺蠖が向き変えるとき

片仮名でススキと書けばイタチ来て

薄荷油を塗りあってヨハネ・ルカ・マルコ


『カルナヴァル』

ああ暗い煮詰まっているぎゅうとねぎ

ひな寿司の具に初蝶がまぜてある

ヒトはケモノと菫は菫同士契れ

猿のように抱かれ干しいちじくを欲る

エスカルゴ三匹食べて三匹嘔く

炎天をおいらんあるきのおとこたち

「ユリイカ臨時増刊悪趣味大全」秋の暮

わが足のああ耐えがたき美味われは蛸

別々の夢見て貝柱と貝は

蝋燭の火が近づくよ秋のくれ


私もあの世に行ったら金原さんと初対面を果たすのかもしれないが、天国に行っているのか、地獄や煉獄をも天国と思ってそちらの有象無象で遊んでいるのか、作風からすると判別しがたいので、両方探して回らなければなるまい。


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