2017-08-06

特別作品 緑陰 樫本由貴

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緑陰 樫本由貴

捨猫や桐の花ふる生垣に
素麺冷やして母系の家や猫までも
川遠や鳥に濃うなる樫若葉
川音の近さに薔薇の褪せはじむ
原爆はほんたう花水木の陰る
水馬やみづのまだらを被爆以後
原爆ドームに楽止まぬ日や蚊に刺され
原爆を見し人氷菓吸うてをり
夏帽子抱かれてより川なりけり
原爆ドームの奥を撮る子や苔の花
黙礼やみな立葵見てきしが
のど仏うすく苔生す樹なりけり
爆心のそのあかるみの夏柳
原爆以後この緑陰に人の棲む
あをぎりの裂傷鳥のこゑのなか
どの碑にも蟻ゐるそれも大きな蟻
鳩呼んで溽暑の人や野に宿る
蝉時雨うすきにも碑の立ちゐたり
かつて爆心いまは入道雲のうら
白シャツやふくらんで風その匂ひ
冷房の展示室冴ゆ二人来て
扇風機いつも傾ぎてをりにけり
空蝉がゐて被爆樹の添木かな
演説に揚羽来てをり演者が見る
鐘までをきざはし灼けてをりにけり
炎天に唾甘うして合掌す
立秋の日をほのと敷き爆心地
七夕にながき昼あり血を病んで
八月をみな旅人のかほをして
萩を描かず原爆ドームのスケッチよ

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