2017-11-05

2017角川俳句賞「落選展」第3室 テキスト

2017角川俳句賞「落選展」第3室

テキスト

11. ハードエッジ 豚カツ

大いなるシーツが飛んで花吹雪
花ふぶき張子の虎も吠ゆるかな
鬼さんもこちらへござれ花の宴
一族は亀鳴く村に住むと云ふ
かりそめの蜜にふくるる蜂の腹
ぴちやぴちやと水の音して恋の猫
噛み抱くは子猫の時のタオルなり
砂浜のこれより岩場松の芯
薄紅の唇硬し桜鯛
子鯨も乳呑むころか朧月
行く春を乗せたる象の歩みかな
花だけで終ることなく花は葉に
瀬戸内の駘蕩たるも花蜜柑
半玉のキャベツ売らるる仰向に
買ふべしや黴除の護符なるものを
客布団黴を寄せじと絢爛に
十薬に白鷺城の見ゆるかな
強きもの力あるもの雲の峰
待ちかねし快音バット缶ビール
日焼子の鼻の頭の仔細かな
金魚玉割れんばかりに赤子泣く
美しき黒の剥落揚羽蝶
ビニールも儚かりしが蛇の衣
水音の縞の浴衣でありにけり
打ち捨てて次なる町へ夕立行
蝉燃えて黒くなりたる原爆忌
寂しさに音ありとせば遠花火
白狐もとより踊上手なり
青虫の腸青き機嫌かな
さらはれて菊人形の傍らに
遠浅の刈田ありけり日が沈む
ひとつ買ひその他の虫は聞き捨てに
南瓜煮て一晩寝かす手紙かな
流星や古墳に神の剣あり
朝々に木の葉が舞へば雀らも
包まれてコロッケ熱し初時雨
木枯に金鈴を買ふ銀座かな
干布団枯野の見ゆる丘の上
ぼろ市のこれは波斯の市場より
懐しき善男善女日記買ふ
聖しこの夜の厨の煮凝よ
水族館に海の一族注連飾
女の神も乗せて目出度し宝船
この山に氷の瀧の幾柱
ゆるやかに階段状の雪として
硝子戸の外に置かれて雪兎
水仙を切つてぽたぽたしてゐたる
水仙を生けて古りゆくものばかり
老先生大学を去る桃の花
豚カツを母が作るよ春休




12. 宮﨑莉々香 うそぶく

飴なめる舌のびのびと花ぐもり
昼は春みんなで銀杏をわける
球根をならべもどれないんだよもう
文学が都市とは別にあるつばめ
どこでもないわかめのながれつくひなた
やさしさが僕をはなれて芹に水
ささやかにつつじを捨ててあるきだす
ノートとるほんとつまらないね虹たち
感情を消してはちすのむれになじむ
はないばらあとがきを書き終へひとり
グラジオラスふちどる雨が幕のやう
夏つばめ文字が全員をあやつる
雲のみね電車でめくるめくページ
飛び込んで足にじいろになつてゐる
まつりまちなみその後をもどかしくうそぶく
ほうせん花鯉をみつめてゐてしやがむ  
なぜだらう朝顔にゆるむくちもと
狂ひつつ口がすいかをたひらげる
つくつくぼーしいつものコーヒーをたのむ
コスモスばたけみんながねぢまきでうごく
九月きつとこれはだれかのための夜景
霧ふかいところ真顔になる紳士
無意識の銀河が声なんだすべて
こほろぎをつかんで匂ふ普通の手
秋のゆうやけかばんから出すボルヘス
或る林檎どこか演劇めく窓辺
くつわむしはりがねじぶんからまがる
消しゴムで消したくらいに白い月
怪我をしてなにもがみにくくてささなき
寒林をいつかの書庫としてあゆむ
たき火してゐる息をしてゐるすばらしさ
なにもかも記してもとのすがたしぐれる
手をつなぎむなしくなつてゐる白鳥
ポインセチア地面に鳴らす傘の先
ハサミてざはりのつめたい花を出す
正月が来てなんとなく食べる海苔
歌留多のなかに日の丸と部屋がある
はるの青ぞら少しだけ生きながらへる
機械からうごかなくなつてつちふる
パンジーを見るもごもごとしてしまふ
あ、風船。アパートの平坦な壁
立ちどまるなかをさくらがふつてゆく
暗やみがくくたちのすべてのひとひ
なのはなにほほゑみはあるけれどない
楡の花実家の子ども部屋のくらさ
麦の秋鳴るだけのピストルを撃つ
虹を見てゐて片方の手で振り合ふ
かたつむり家族ふるびていくところ
くるぶしほうたるわかりあへないとつぶやく
くたびれて夏野を最高に行かう
 



13. 柳元佑太 教科書のをはり (*)

教科書のおもての照りや春疾風
たはぶれの詩句が遺稿の余寒あり
薄氷のうへの冷たきにはたづみ
苗札やその陰に芽をかかやかし
うららかや贋作のあをうつくしく
化けさうな猫に子猫のありにけり
春の夜の字幕の愛のつたなけれ
バベル以後塔のかなしさつばくらめ
さはれずの墓たちのぼる紫雲英田は
函館に花前線がぶつかりぬ
その人の喪が白藤のをはりどき
見えてゐる藤のかをりを云ふべしや
翻訳を経て名文やおじぎ草
はつなつや布を帆と呼ぶこころあり
影為すにものとひかりぞ夏雲雀
陽炎とおもふあたりの揺らぎやう
チョコ溝のチョコ片を吹く涼しさよ
夜明まだ夜のごとくあり柿青く
サルビアや絵は船旅を経て額に
なみおとになみたはぶれてなつのくれ
夏たけなは丘全景に墓の照り
舐めて酸き己がくちびる炎天下
夏痩を灯なき蝋燭にもおもへ
さるすべり佳き平仮名にぐりとぐら
けふよりの旅靴に竹落葉かな
柚子の花骨壺に骨ひとりぶん
たなごころいちめん早稲となりてゐし
うす布に月を磨けば淋しからむ
その裏にみづうみ澄めり盲学校
かりそめの黄泉かとおもふ苅田かな
まなうらの大いなる稲刈られざる
濡れ椅子拭く濡れ雑巾や運動会
気化それに伴ふ冷えの苅田道
たふたしや月の入江に月の波
さはらずの琴ありにけり秋出水
蔵書庫におほきな柱秋深む
その人をかたどるに菊つめたかり
湯捨てれば曇る鏡に冬たちぬ
その前に雪だるまあり百貨店
終に火の崩すは焚火自身かな
寒き世の挿絵をつぎつぎとカリブー
かの寺へ雪目童子を負うてゆく
なはとびの淋しき人となりにけり
凍星なつかし利器灯し確かめよ時刻
一月の日は凍てながら落ちにけり
しかうして田はいつも雪ふるところ
月光の中に浮かびし冬の月
かつて軍都ビルのあはひを雪とべる
冬の夜の小指の纏ふうすあかり
教科書のをはりの雪の詩なりけり




14. 薮内小鈴 東都

呉爾羅へと巻く朝顔が窓のそと
台風の橋桁あまた翼寄す
つくつくし淡き声する旅人も
祭帯締め合ひけふの秋薊
見覚えし路また鰯雲へ向き
おもかげの島は葦原鯊を釣る
青蜜柑ゆふべの卓に汐微か
キーボード閉ぢ芋虫の如く指
磨硝子ごしに瓢箪濡れ初むる
入口と出口の猫や秋の径
鉄骨を組めばゆらりと芒原
天の川珈琲売の去りしあと
きはやかにお釜語飛びぬ秋時雨
蒲団干すラーマ九世逝去して
神留守のふと思ひたる狐穴
色の羽根なけれど亀に落葉かな
冬川やむかうに塔の影とどき
指先をつまみ手袋拾ひけり
羽ばたける井の頭なり檻の鷲
富士山の先に日の入る冬至かな
骨董屋カトレアは星雲めきぬ
揚げたての白子が震へ寒の入
北風や金柑夜へくすみゆく
髪に髭に日の透けてゐる枯木立
湾口の深き谷ぞこ鮫古び
鳩ぴしと散らしたる店浅き春
そのままに春菊ぱらり滴落つ
仕立屋の足踏ミシン梅の花
日光より猿来りけり春の土
遠霞揺れる電車のまつすぐに
つちふるも夢を過ぎつつ鸛
お彼岸や渋滞解けて花の夕
影浴びるほどは仰がず桜かな
崖縁の巣箱や下に記念館
次次と石鹸玉いで静けさよ
看板の青みたる路地水草生ふ
海渡り橋はもぐりぬ月朧
若楓みじかき裾の集ひては
噛みがちのラップを越えて水馬
茂りゆく端に自転車籠の触れ
夏燕もう魚市場灯るらむ
音涼し下水落ちゐる富士見坂
あぢさゐを辿り天井桟敷かな
梅雨菌長耳ありし犬とほく
渦よつつ冷し中華の文字へ振り
南風に貝殻そへて鉢数多
羽田から入る密林西日さす
祭への潮きこゆや獅子頭
月見草カリー屋今は伽藍堂と
一客の湯呑置かるる雲の峰




(*)一次予選通過作品

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