2013-05-12

【週俳4月の俳句を読む】血潮の腕(かいな) 前田霧人

【週俳4月の俳句を読む】
血潮の腕(かいな)

前田霧人



豊里友行(とよざとともゆき)氏は1976年、沖縄県生まれ、沖縄市在住。『新撰21』にも選ばれた新進気鋭の俳人であり、「ウチナーンチュ(沖縄の人)としての視点から、沖縄に根ざした写真テーマを追求する」写真家でもある。氏の「島を漕ぐ」10句から何句か取り上げてみる。

  櫂となる血潮の腕(かいな)島を漕ぐ  豊里友行

表題と同じ「島を漕ぐ」のフレーズが入った2句の中の1句である。

4月から5月、沖縄は「うりずん」、「若夏」と続く絶好の日和を迎える。クサゼミが鳴き始め、色とりどりの花が咲き揃う。また、様々な行事が行われる。

旧暦3月3日には浜下り(はまおり、潮干狩りや厄払い)とフーチムチ(蓬餅)を作る風習を伴う三月三日(さんがつさんにち)、旧暦3月15日には三月ウマチー(麦の収穫感謝祭)がある。また、5月3~5日は航海安全や豊漁を祈願する那覇ハーリー、旧暦5月4日は糸満ハーレーである。

この時期、沖縄の人たちの気持ちはいやがおうでも高ぶって来る。この句の作者も例外ではない。

一方で、この時節の平和な沖縄を蹂躙したのが1945年の沖縄戦である。既に前年の10・10空襲で那覇市全域は壊滅的打撃を受けていたが、⒋月1日には米軍の本島上陸作戦が開始される。そして、激戦の末に司令官の牛島満中将が自決し組織的戦闘が終了したのは6月22日である。現在、6月23日は「慰霊の日」、また、5月15日は沖縄が1972年のこの日に日本に復帰した「復帰の日」となっている。

作者は「沖縄への思い、平和への思い」を共有する金城実氏の人と作品に取材した『彫刻家金城実の世界』、基地の島の現実を活写した『沖縄1999-2010―戦世(いくさゆう)・普天間・辺野古―』という2編の写真集を出している。

『日本国語大辞典』などによれば、「血潮」とは体内を潮のように流れる血。「熱き青春の血潮」などと、燃えるような激しい感情、情熱などの喩えにも用いられる。

この句の「血潮」には、かつての沖縄戦、米軍基地が占拠する現状、これからの沖縄という、沖縄の過去、現在、未来への作者の熱い、深い思いが籠められている。

作者はその「血潮の腕」を櫂として、これまでも「島」即ち「沖縄」を漕いで来たし、これからも漕いで行く。

4月の高ぶった時節、気持ちの中で、作者はこの句を詠むことにより、自らの決意を新たにしているのである。

  島を漕ぐエイサー太鼓の月と太陽(ティダ)  同

「島を漕ぐ」のフレーズが入った2句中の2句目で、「島を漕ぐ」10句の締めに配された句である。

上記の「島を漕ぐ」という作業は一人の力で出来るものではないことを、力強い中にも抒情的に表現した句であり、先の「血潮」の句とは対称的な趣を見せる。

エイサーは沖縄の盆踊で、三線、太鼓などの伴奏で歌い踊る。エイサーはその囃子詞である。また、月と太陽(ティダ)は何れも神に擬される、人知を越えた偉大な存在である。

宮良当壮『八重山語彙』に、ティダは「太陽。テダ(照神)の義か。ダは偉大なるものに添ふる接尾語にして、原義は父を意味するタと同じかるべし。テラ(照)の転と云ふ説もあり。」とある。

そしてまた、「月と太陽(ティダ)」は作者が代表を務める俳句会の名称でもある。

  泡盛の氷河へどっぷり月沈む  同

筆者は三十代の初め、久米島に仕事で約1ヵ月滞在した時、毎晩のように泡盛を飲んだ。油圧ショベルのオペレーターと行った闘牛場(ウシナー)では昼も飲んだ。今は所属誌の師系、井沢唯夫ゆかりの沖縄居酒屋「梯梧家」(でいごや、大阪・天五)で時々飲むが、ともかく泡盛はストレートが一番うまい。その香りと、喉に来る感覚がたまらないのである。

この句の泡盛は「氷河」であるから、オンザロックか水割りである。作者は一人で、あるいは仲間たちとそれを飲んでいるのであるが、大勢で飲んでいても時折グラスの中の「氷河」に視線が、思考が沈潜して、独りの世界に入り込む。

「どっぷり沈む」のは作者でもあり、月でもある。つまりは、グラスのゆっくりと流れる冷たくて硬い半透明の氷河の中で、酔った作者と月は邂逅(めぐり逢い)をしている。そして、作者はあるいは月に自らの思いを告げ、質疑応答をし、あるいは「しっかりせよ」と元気付けられているのである。

現在、豊里友行氏は中央集権型の俳句歳時記に風穴を空けるべく『沖縄写真歳時記』を編集中で、もっと沖縄の自然や文化を撮影しないといけない、と自らのブログに書いている。

以上、そうした氏の諸々の思いが少しずつ着実に成就して行くことを願うのは筆者だけではない筈である。



第311号 2013年4月7日
外山一機 上毛かるたのうた  ≫読む

第312号 2013年4月14日 
豊里友行 島を漕ぐ  ≫読む
西村麒麟 でれでれ  ≫読む

第313号2013年4月21日
渡辺竜樹 鯉幟  ≫読む

第314号 2013年4月28日
篠崎央子 日課  ≫読む
松尾清隆 休みの日 ≫読む

1 コメント:

豊里友行 さんのコメント...

前田霧人さまへ

俳句鑑賞ありがとうございます。

浜下り(はまうり)ですよ。